· 

奇跡の大逆転劇/甲子園での転機

2

そして最終回の桐蔭の攻撃に入った。

9回裏1アウトを取られるが、

次の7番代打愛谷がデッドボールで出塁。

反撃の狼煙が上がった。続けて8番山崎、

9番清水が内野安打とフォア―ボールで

それぞれ出塁して1アウト満塁の

チャンスを作った。

桐蔭側のスタンドは大盛り上がり、

「このままいけ!」といわんばかりに

応援のボルテージも上がっていく。

だが次のバッターは空振り三振で

2アウトになった。だがまだいけると全員で

ロッテの「デコトラの鷲」を歌い続けた。

しかし2番山本はすぐに2ストライクに

追い込まれた、1球ファールでしのぐも、

もうストライクゾーンに来たら打つしかない。

そしてピッチャーが投げた4球目の

外角の球を打った。しかしあたりは鈍く、

サードの真正面に転がった。

サードはエラーすることもなくボールを

握りなおしてからファーストへと送球した。

これで試合終了。誰もがそう感じただろう。

しかし送球がわずかにそれ、ファーストの足が

ベースから離れたことで、バッターの山本は

ぎりぎりセーフで出塁し3塁ランナー

が生還した。

仮にサードが三塁ベースを直接

踏みに行っていたら、あるいはボールを

二回握り直していなかったらアウトになって

試合終了になっていただろう。

まさに首の皮一枚つながった。

1点を返して校歌を歌い、スタンドは大興奮で

「サンバ・デ・ジャネイロ」通称「アゲホイ」

の応援を始めた。

なお2アウト満塁でバッターは

3番キャプテン現横浜DeNAベイスターズの森だ。

この日はこれまでノーヒットだったが、

最高のシチュエーションだった。

そして2球目だった。ピッチャーが投げた外角に

浮いた球を見逃さずジャストミート。

打った瞬間に球場のほぼ全員が立ち上がった。

歓声と悲鳴と共に球は一気にライトスタンドへ

吸い込まれた。

起死回生の逆転サヨナラ満塁ホームラン。

気づいたら自分は家族だけでなく、

野球部の保護者の方達とも抱き合っていた。

それぐらい全員が興奮していたのだろう。

おそらくこれ以上の試合に巡り合うことは

一生ないかもしれない。

16年間甲子園から遠ざかり、下火になっていた

野球部に一気に光が差した勝利であるとともに

、全員の全力の応援が試合をひっくり返した

ように感じさせた。

この試合以降、今まで以上に野球と吹奏楽の

世界にはまっていった。私は2日後の試合も

大学の授業をサボって見に行った。母校は

その勢いのまま準々決勝で佐野日大、準決勝で

習志野、決勝で春日部共栄に勝利し26年ぶりに

関東大会を制して、16年ぶりに春のセンバツ

高校野球大会への出場を確定させた。

もっといろんな学校の応援を知りたいと思って

、母校が選抜出場を確定させてすぐに

センバツ高校野球の試合を1週間見に行く予定を

立て始めた。同時に出場校すべての応援を

YouTubeで調べていた。

そして2019323日第101回選抜高校野球が

開幕した。ここでの約1週間の経験が、

自分も演奏できるようになりたいと吹奏楽を

始めるきっかけなった。

初日から圧倒される応援ばかりだった。

やはりYouTubeと生は違うなと感じた。

初日の第一試合には応援歌がすべて

オリジナル曲の市立和歌山高校が登場。

3年ぶりの甲子園で新たに1曲を作成し

応援に使用し、応援への熱を感じた。

そしてこの大会で一番はまったのは次の試合の

高松商業高校のチャンステーマ

「プリティフライ」だ。ブラスバンドの演奏と

応援団の掛け声に合わせて、アルプススタンド

がパレードのような雰囲気に包まれた。

高松商業のブラスバンドももちろん来る前から

調べてはいたが、現地で見た応援は

ブラスバンドの演奏、チアのダンスに

応援団黄色い声援が見事なバランスで

高校野球応援の完成形だった。

その後も毎日圧倒される応援が続いた。

習志野美爆音はもちろんのこと、龍谷大平安の

威圧感あるオリジナルソング、大阪桐蔭による

東邦高校の助っ人演奏など、応援大会と事前に

言われていたことはあるだけに、その熱気は

すさまじかった。

そして大会5日目の327日ついに母校の試合の

日になった。

対戦相手は福井県代表、初出場の啓新高校。

この日の第3試合だったが、興奮と不安で朝から

気が気じゃなかった

(自分が緊張しても意味ないのはわかってますが

ファンというのはそういうものです。)

2試合が終わり、応援団が入れ替わると

桐蔭側のアルプススタンドはみるみる人で

埋め尽くされ、あっという間に満員になった。

県大会ではガラガラだったのにこんなにOB

OG、生徒が来るとは思わず、驚いてしまった。

試合は初回と2回に点を取られ30

苦しい展開となる。秋の大会とは違う独特の

雰囲気による緊張で少し動きが硬かったかも

しれない。しかし2回裏にチャンスを迎える。

2アウトながらフォアボールとヒットでしぶとく

満塁のチャンスを作る。

チャンスになったところで、桐蔭が

秋の大会を勝ち抜く原動力にもなった

「アゲホイ」の演奏を開始。

この曲で一気にアルプススタンドが

盛り上がった。数の暴力といわれれば

それまでかもしれない。だがそれと同時に

応援団が一体となった。

桐蔭はこの回2点を返した。それによって

選手も落ち着きを取り戻した。やっぱり応援は

流れを変えるなと実感した。

その後も甲子園出場と同時に復活させた

オリジナル応援歌の「OH」なども演奏され、

アルプススタンドは盛り上がっていった。

しかしながらその後相手ピッチャーを完全に

攻略できなかった。こちらの応援は一体と

なっていたが、序盤の失点が響き、

思いは届かず53で敗れた。

 

正直悔しかった。

中高とこの甲子園出場を待ちわび、

大学生の時にようやくその夢がかなった。

それだけに勝って校歌斉唱をしたいという

思いも同時に強くなっていたからだろう。